霧の底の国/
殿岡秀秋
、霧は奔流となって女の裸体を覆い、たちまち谷を白い泡で満たしてしまう。
巨大な女の裸体をもういちど見たくて、ぼくは展望台に震えながら立っている。やがて光が差して霧が再び後退を始める。すると木々の間に雪が積もる斜面の下を、凍りついた谷間の川面が現れてくる。先ほどの女は見当たらない。また霧が立ちこめたが、もう一度女の裸体が見たくて、ぼくは展望台から去らなかった。三たび、霧が晴れたときにぼくが見たのは、言葉にすることができないものだった。
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