小春日和/落合朱美
やわらかな陽射しに顔を照らされて
ふと立ちどまる
それはあの人の腕の中と同じ温もりで
ぽっかりと空いた胸の空洞に気づく
子供みたいに駄々をこねて
一夜だけでいいからと縋ったのは
女としていちばん艶やかな時を
見てほしかったから
あの夜の記憶だけで
生きてゆけると思っていた
あれから誰も愛せずに
それを淋しいなどとは思いもせずに
目の前の景色が滲んだから
思わず両手で頬を挟んで下を向く
街路樹の根元に
名も知らぬ花が一輪
陽射しに向かって精一杯顔を上げて
私を見てと乞う姿がいじらしい
やがて雪が降ればこの花も枯れ果てる
けれど今日の小春日に享けた恵みを
花はきっと忘れない
私は何故花のように
満ち足りることができないのだろう
潔く散ることも遅咲きに綻ぶことも
できないまま
ただ不甲斐ない女のまま
花を羨やむ
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