どうでもいい真実/紀ノ川つかさ
砂浜に這い上がり
産卵を始めたウミガメが
涙を流す
卵は砂の中に置き去りで
母はそのまま海へと帰る
生まれた子の姿を
母が見ることは無い
どの子が生き残り
どこ子が死んでしまうのかも
母には分からない
せめて
涙を流すだけ
少しも悲しまずに
この場を立ち去ったわけではないと
分かってほしいから
ひたすら涙を流す
ところが正確な話は
あれは涙ではなく
体内の塩分を排出する
ウミガメの身体機能である
別に悲しんでいるわけではない
これが真実だ
でも
いったいこの真実に
どれほどの価値がある?
真実こそが素晴らしいと
言う人々よ
答えなさい
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