ゼロの方/アンテ
 

駅からの帰り
長くつづく塀のすみっこで
ダイヤルを見つけた
それは黒ずんでいて
たくさん目盛りが打ってあった
そっと触れると
ダイヤルは手にしっくりとなじんだ
銘板が空欄だったので
願望
と書き込んで
ためしに少しだけ回してみた
どこか遠くから
音が聞こえた気がして
でもそれだけだった
目一杯回してみても
変わったことはなにも起こらなかった
ひょっとすると
ゼロの方に回したのだろうか
気配を感じてふり返ると
あなたが立っていた
なにしてるのこんなところで
腕にぶら下げたビニール袋から
いい匂いがした
ああ これね
指さした先
ダイヤルのあった場所には
小さな花が咲いていた
そういうの摘んじゃいけないんだよ
返事のかわりに
ビニール袋を奪い取ると
あなたはけらけら笑った



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