夏の朝ははやばやと起きて/なを
 
あのころ
とても好きだったのは
Mと云うおさない綺麗なひとで
ピアノを弾くひとでした
むきだしのあしををちいさいおとこのこども
のように
黒い椅子のうえで揺らして居たのを覚えて居る
重い鎖のような時計をはずしてわたしの手に預けて
夏の朝ははやばやと起きて
道がふたてにわかれて居るところまであるいてゆく
そうして、そこに
花の咲く木があることだけをたしかめておいてようやく安心して
ベッドにいそいで戻るまだだれもめざめないうちに
その枝には幽霊がひっかかって居てあれは
くびをくくって死んだひとの幽霊だなんて
ずいぶん陳腐なことを云うものだわ、なんて
ほんとうはわたしここ
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