『9月11日の線香花火』/川村 透
 
、あの、不快な心地よさを呼び覚ましてしまいそうで
何か地鳴りのような響きにさらわれてしまいそうで
浴衣の帯のいやないやな、きつくるしさで
まっすぐに立っていられなくて、
夜の、野の底にしゃがみこんでしまう。
誰かが、大丈夫 ?と耳元でささやき
犬のように息を撒き散らしながら星のような湿った指先で、
太い腕ごとおずおずと少女の肩に浴衣に触れる
一瞬、
  
少女の前に突き出されていた花火がびくびくと火花を痙攣させて果てた
 
少女は動かない
ほんのついさっきまで花火が生きていたはずの
うつろな空間から目をそらさずに、いた。
少女に触れていた蒼い腕は、はっとしたように少女
[次のページ]
[グループ]
戻る   Point(5)