願望充足1/佐々宝砂
暗い部屋で、でなければ暗い森で
そうでないなら
夜七時過ぎの町工場の隅の暗がりで
(何がなんでも、あくまでも、暗くなくてはならない)
かさり、と微かな音たてて動く物影は
ホモ・サピエンスかもしれない
(だった、かもしれない)
彼、なのか、彼女、なのか、問わない
それ、であってもいいのだが、ともかくその物影は
いくらかの知性を有しており
いくらかの憂いを知っており
目の下にはくっきりと隈があるが
その隈はホンモノではなく装飾でありメイクアップであり
その指先からはたらたらと血が滴っているが
その血液は、それ、のものではなく
それ、の足元には
かつてホモ・サピエンスであった肉塊が
引きちぎれ割れて砕けて裂けて散り
明日には腐りどろどろと溶解し果てるであろうその肉塊を
それ、は
憂いではあれ悲しみでも絶望でもない感情で見つめ
ほほえむ
そのほほえみが
わたしはほしい
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