かなしい帝國/石川和広
 




にいちゃん
わたしな
どこへもいけへんねん
うばすてやまにすてられたみたいや
ほんよんでるだけやねん
夕暮れ
わたしは掃除しながら
聞いていて

そんな今 むかし




歩いていると
ひとつの土くれが落ちている
何気なく見ると
誰もいない通り
空を見上げると
ニヤニヤ笑う人がいる

そこが穴だ
そこが穴だ




まばたきしている間に
終わってしまった
わたしの夕暮れ



あたりまえのこと
箸の握り方
つまずいて
砂漠を歩いて
かけざんがわからなくなって
ひとつ
ふたつと
すき間ができている
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