秋がない/ZUZU
えに、
秋が終わってしまっていたの。
いつの話だい、って聞いたけれど、
思い出の話よ。
だって。
もう秋じゃないか、これが秋だよ。
朝は雨だったしね。
ぼくは肩をすくめてみせた。
でもたぶん、そういうことじゃないんだろう。
彼女には秋がないんだ。
それは二度とはない夏で、
だから、けっして来ない秋だったのだろう。
「そういうことじゃないのよ…」
エゴン・シーレは死ぬときどんなに淋しかっただろう。
もしぼくがきょう、
死んでしまうとしたら、きっと同じくらい淋しいと思う。
きみとわかりあえないってことは、
それくらい淋しいことなんだよ。
美しく並んであるく大学生たちの声はまるで、
小鳥の声のように聞きとりにくい。
ふと冬のにおいがした。
もしかしたら、すれちがったのは北国の少女だったのかもしれない。
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