冬の葬列/こしごえ
(足音が空に響く)
木枯しの吹く 門の影にひとり
傘を片手に
かんざしをなおし空をぼうっと見つめる
黒髪がしん
と光る寒さに
空はなにもいわず
そのままの形で をんなは立ち
「あ」
とよぎった薫りに
冬が来たのを知る
映画館内に明かりが灯った
胸の中を足音が近づいてきた
外に出ると
いまにも落ちてきそうな
低く垂れこめた空を見つめた
待っていたのだろうか
この時を
鈍色(にびいろ)の繊細な騒めきに
世界が予感を支配する
寒い
足音は立ち止り
何事か私語(ささや)いた
あ
「金魚」
傘を忘れた
小雪が黒髪に舞いおりて キスをした
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