くまつま/大覚アキラ
ねえねえ と よびかける妻の声に
ふりかえってみると そこに熊がいて
つぶらな瞳で ぼくを見つめている
月9って何チャンネルだったっけ と
テレビのリモコン片手に熊が訊く
おどろいて言葉を失うぼくを
熊は小首をかしげて
不思議そうに見つめている
いつのまに
妻は熊になってしまったのだ
さっきまでキッチンで
洗い物をしていた細い腕は
丸太のような太い腕になり
今朝ベランダで
洗濯物を干していた薄い肩は
凶器みたいに厚い筋肉の塊になり
おとといの夜ベッドの中で
ぼくの腕に抱かれていた白い肌は
針金のごとき剛毛に覆われていて
ああ こんなことになるんだったら
昨日の夜も 妻を抱いておけばよかった
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