タクト/銀猫
歩き疲れた素振りを見せず
意固地なくらい背筋を伸ばして
灯りの少ない舗道を歩けば
月の兎と靴音だけがついてくる
無感情に道程を辿り
行く手を遮る列車を見送ると
何故かしら
乗りそびれた車輌には
夢が乗っている気がする
獣の唸りと
風の轟音に似た
そんな
荒けた響きで
鼓膜が刺激され
急に現実が熱を帯びた
天空の月星
もしもまだ間に合うなら
一夜限り
地を這う闇に紛れた花
もしもまだそこに在るなら
一度限りでも
日々の煩いに不揃いな
シンフォニーの
タクトを振らせて下さい
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