小詩集「書置き」(七十一〜八十)/たもつ
 
に私にはあって
そのことで
私の何も痛まなかったし
痛む必要などなかった
今こうして
あなたのうっすらと冷たく
懐かしい身体に
触れようとすると

+

白線の内側にお下がりください
そう言われて人々はみな
思い思いに白線を描くと
内側に下がり
そのままどこかに行ってしまった
どうして僕は
チョークを忘れてしまったのだろう

+

電車は電力をなくし
いつしか犬が
車両を引くようになった
町にひとつしかない駅を
特急が犬の速度で通過する
それでも当時の名残で
誰もが
電車、としか呼ばない

+

誕生日なので飛行機に乗り
どこか遠くに行こうと思いました
幾つかの交通機関を乗り換え
大きな空港に着くと
ロビーには既にたくさんの人がいました
みんな今日が誕生日なのだ
そう思うと
僕はまだ産まれてなどいませんでした

+

野原の真ん中で
扇風機が首を振っている
何かの神様に見えたのかもしれない
小さな子供が
土のお団子をお供えして
いつまでも手を合わせていた



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