揺れるだけ/炭本 樹宏
悲しみのうちに少女がいた
少女はなにも語らない
その少女の秋が終わろうとしている
彼女のむねの内にはたくさんの
こぼれおちそうな夢がたくさんあった
こころなきものがその少女の夢を奪っていった
少女には泣くことはゆるされなかった
今少女は凍える冬の訪れにおびえている
友達と遊んでいても
彼女は別の世界にいる
ただ胸を痛めている
大人達が作った世界ではいきていけない
だれもその少女の悲しみを知らない
少女の涙をぬぐってくれるのは
ごみ捨て場にすてられていた犬のぬいぐるみだけだった
夜には満天の星空を見上げ
小さな手を合わせ
つぶらな目でにじんだ月を眺めながら
時が流れてゆくのを感じるだけだった
彼女はまったく汚れていない
汚れていないからこそ
この世界をさ迷っている
道端の花のように風がふけば
揺れるだけなのだ
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