白は傷を残す/椿青
今日は昼から雨が酷かった。
それに比例して頭痛も激しく、息苦しくなってわたしは小さく咳き込んだ。
誰も来ない廊下に、その咳は足音といっしょに響く。
(白くて、身動き一つしないカーテンの奥に、彼女はいる。)
苦しそうな呼吸音。
血の気の失せた肌。
動かないまぶた。
(白く曇るプラスチックの器の中で、彼女は息をして、いる。)
布団の中に手を入れて、そっと彼女の掌に触れる。
「おばあちゃん」
一昨日握り返してくれたそれは、柔らかくて熱いのにもう動かなかった。
(この白く、あまり柔らかくなさそうなベッドの上に、彼女はいる。…いるのだ)
「おばあちゃん…、」
(白いシーツと彼女の白髪は、溶けあいそうなほど、よく似ていた)
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