カジモドの猫/まどろむ海月
細やかな雨が
降り続いて
冷えきった体を
温かな
獣の匂いのする
優しさで包んでくれる
エスメラルダ
と名づけられた猫は
カジモドに抱かれて眠る
人間は総じて醜いのに
彼の美しさが
わからない
猫に生まれかわって
初めて見える 美
この自由
誇り
悦び
誰からも求められない
彼の愛
でも だから
私はその愛を
占有していられる
猫に転生して
初めてかなえられた
この願い
人であった日々にも
花陰の蝶の中に
安らいでいた日々にも
帰りたいとは
思わない
名前も
思い出さない
時間は
安らかに
閉じられた
註 *カジモドはノートルダムの異様に醜い鐘突き男。 *エスメラルダは、カジモドがひそかに恋するジプシーの美女
[グループ]
戻る 編 削 Point(3)