秋のデミタス/けんご
ランブルのデミタスを
すするように飲むと
僕の舌先に
震えるような秋が来た
ドミ二クチノの蒼い絵が
氷のように冷たく見え
飲み干して
しばらく歓談していても
僕の胸のうちの秋は
立ち去らない
僕のリクエストは
ラベルの弦楽四重奏曲だったのに
マスターのお勧めは
マイルスデイビスの枯葉だったのだ
そして僕らはしばらく話し続けて
見るつもりでいた庭のミモザも後に
帰路に就いた
いつか遠い日
何らかの理由で
僕がこの店に来れなくなる日が来ても
デミタスの味とマスターの笑顔は
想い出すだろう
そして今日は格別
秋の好日だったのだ
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