シリーズ「おじさんと僕」2/ベンジャミン
(その2 自転車屋のおじさん)
おじさんの手にはすっかり油がしみ込んでいて、指紋もわからないくらいになっている。
それが職人の手だと自慢していたけれど、あんまりじろじろ見ていると少し恥ずかしそうにするので、ちらちら見ることにしていた。
おじさんの指に吸い付くようにひろわれた小さな部品たちが、廃品回収で持ち込まれたおんぼろ自転車に取り付けられると、それがだんだんと息を吹き返してゆくように見えるのが不思議だった。
「こいつらに足りないのは、乗ってやる人間だけさ」と、おじさんは言う。
そして
「こいつらのいいところは、ちょっと壊れてても動くところさ」と、言って笑う。
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