破水/大覚アキラ
突然なんの断りもなく
雨が降り始める
涎みたいに糸引く雨
涎みたいに生ぬるい雨
空は晴れ渡っていて
雲ひとつないのに
猛烈な土砂降りだ
傘を持っていないぼくは
手近な喫茶店に飛び込むが
飛び込みに失敗して
扉に眉間を強打する
そういえば学生の頃から
飛び込みは苦手だったんだ
その様子を
傘を差した人たちが
横目で眺めながら
苦笑いを浮かべて
足早に通り過ぎてゆく
ぼくは血の滲んだ額を
押さえながら
全身ずぶ濡れになって
涎のような雫を滴らせながら
太陽を浴びて輝いている
まるで産まれたての
赤ん坊みたいに
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