猫と償い/
巧
勇気を出して走ってみた
転んだ
勇気を出して喋ってみた
舌を噛んだ
勇気を出して微笑んでみた
「何にらんでんの?」って言われた
勇気なんて要らないと思った
だから捨てた
走れない
喋れない
微笑めない僕の足元に
一匹の猫がいた
力いっぱい抱きしめた
次の瞬間
猫は消えていた
僕は泣いた
泣くのに勇気は要らなかった
それから僕は
転んでも走った
舌を噛んでも喋った
勘違いされても微笑んだ
なんとなくそれが
あの猫への償いのような気がしたから
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