バラ線/光冨郁也
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動きのとれにくい中に、
繰り返す蹴り、床をはう彼の、
「なんで・俺ばかり・狙うんだ//」
悲鳴に近い、ふてくされた声。
頭を抱え、うずくまる彼は、
蒼白の、わたしの姿だった。
わたしは、
わたしに、
蹴りをいれつづける、
足がしびれる。
顔をしかめ、目を見開き、
喉をつまらせながら、
わたしは、
わたしの背に、痛みを与えつづける。
沈んでいく、体が重い。
小さい手で、
花のない刺に、自分の指をからめる。
残りの靴をひきずり、ランドセルを拾い上げ、
だれもいない道を、歩きだしながら、
わたしは下唇をかみ、
空をあおぎ、肩をゆすり、
声をふるわせ笑う、空気がゆれる。
わたしの握り締めた、
声のだせない、バラ線。
その向こうには、
雑草にゆれる空き地に、
石の上に、放られた靴のかたわれ。
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