林檎の皮をぐるぐると剥きながら/紫音
 
林檎の皮を剥きながら
表と裏について考えてみる
するすると螺旋を描いて落ちていく皮の
虚ろな赤と乳白色のコントラスト
刃を当てて表を削り取る
その先にはまた裏と表が出来上がる
ぐるぐる ぐるぐる ぐるぐる
どこまでも剥ぎ取りながら
鼻歌交じりで表と裏を分解していく
表 裏 表 裏 表 裏 表 裏
「表」という言葉の表と裏
「裏」という言葉の・・・

鋭利なナイフの柄に刻まれた名前
名前に 秘められた意味 軽やかな響きの音
不在の実在が
名前によって 言葉によって 顕現となり 歴然とした事実となり
呼ばれて振り返る顔の
皺の数だけ えくぼの深さだけ
林檎の皮を剥き続ける
奥底のひだを剥き続ける

今日の林檎はとても赤くて酸っぱい

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