指が落ちるように/千月 話子
 

「夕日が落ちる前に、帰ってきなさい。」と母が言う
 私は、海が見たかった。
 秋の夕暮れる速度と思い出と川沿いを歩き
 橋の向こうまで。


スタートは、浅い川底の尾ひれで跳ね上げる小さな雨の世界から

 岩裏には黒いタニシが住んでいた。
 気持ち悪い なんて言わないで下さい。
きれいな水だけが そのか弱い体を守っていたので、美水の象徴
グロテスクな巻貝と一緒に泳いだ
あれは、もうずっと昔 カエルの浮き輪で・・・


水底は数メートル下へ

 日曜日には、貸しボートが賑やかに 恋人と親子と水しぶき乗せて。
ブランコを揺らして ひと休みする少女の足元に
柔ら
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