旅/newR
 
   
   旅


遠ざかる風景の中に、手を振る私がいる。
穏やかな表情で手を振る私は、微笑んでさえいる。
(あの時の私は悲嘆にくれていたのだ)
それを見ている私は、手を振れないでいる。
私は難しい顔をしているに違いない。
手を振る私は、ここにいる私を見ているような、
そんな気がして仕方がないが。
(あの私が、ここにいる私を見つける事はない)
あの私は、遠ざかっていく私達全てに向けて、
手を振っているに過ぎない。
(ただ、遠ざかっていく私達の事を、
いろいろと思い浮かべているのだろうが、
それがあの微笑みだ)

遠ざかる風景の中に、父と私が居る。
私は幼く、
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