札束と勇気/示唆ウゲツ
それは眠りながら
君の体を行き交う虫を捕まえて
虹色に光る魚を探したかった
なにかを追ってどこかまできたけど
帰るための電車も小銭もなかったんだ
唐突で従順な世界の中で
僕は自分のことをあざ笑う覚悟はできていたのだ
青空に淡々と注がれていく茜色を眺めながら
黄色い人間から盗んだぶどうのお酒を振りまいた
濁ったビンの口に人差し指を入れて
生活の憂いと指についた酸味を舐めとった
それは眠りながら近づいていく
誰かがまだ正気だった頃のお話
郵便局の前で
市役所の前で
魚屋さんの前で
おひとついかがですか?なんて言っていた君が
冷感だったころのお話
ところで僕には
今、帰る術もないので
ポケットのついた両胸に札束と勇気を詰め込んで
干からびた猫でも撫でながら夕闇をタテに切り裂いていく
それは眠りながら
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