ファーストキス/はな 
 
がったしゅうまいを掬う

ちいちゃんは
えぷろんのみどりいろを
すこしずつお店の空気に蕩かしている
お客さんが、ちいちゃん、きょうは何ですか、とたずねると
はあい、しゅうまいです
からりとなった衣を網におどらせ
うすずみのような風 

この右手の親指は
ときおりそっと手の平を離れていって
ある桜のころ とうとうもどらなくなり
いつからかもう
いたみを感じることもなく



しずかな店じまいの後
親指のきえた右手をほろり と投げ出して
やさしい風の鳴る
二階のへやで たたみのすきまを縫うように

むかし 尾鰭のなかった 雨の中の日々 と

すっかり乾いたかさの影が
ゆっくりとかたむいてゆくのを
ただ 
見下ろすように して


さら ら、


何度も 触れる




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