昔雨/蒼木りん
 
ない

町は少し窪んでいる
川がいちばん低い場所
洪水ばかりの歴史であった

裏通りは
いまでも湿っぽい気配
ここは
ずいぶん浸ったのだろう
消毒くさい

町の子は
狭くて急な階段の
二階の部屋から
花火と人の裏通り観て

落ちたら
転げて死ぬ
高い堤防
低い欄干に寄りかかったら
吸い込まれそうな
緑色の川

川向こうの子は
よくもこんな橋
渡って帰ったものだ

茶色い濁流に
豚と牛と人間
次の日の話題

覗けばまだ
幾万もの槍の雨
トタン屋根の下
座敷に
ばあと子どもが
布団を敷いて寝ている

親父は屯所
母は豆を煮
じいは風呂焚き
煙が煙る
納屋の農具は黙っていた



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