一生日記/岡村明子
 
十年日記をもらった
はじめる日が見つからず
十年過ぎた

色あせた表紙の中身は真っ白だが
ニュースはたくさんあった
書き留めておくべきことだったかもしれない
あのときの一大事も
三年後には記憶の底
五年後にはなかったこと
日付を見ても何も思い出せない

十年前日記をいまさらながらにつけるというのはどうだろう
十年間の出来事をつづってある日記
世相とともに思い出すこともたくさんある
十年前じゃなくてもいい
一生かけて埋める日記があったっていい

三百六十五日
一日ずつ同じページに毎年の出来事を書いてゆけば
自分だけの日めくりカレンダーができあがりだ
九月五日というページには自分が生まれた年から書き込めるのだ
うまくいけば一日のページに八十年分の出来事が書き込まれる

そうして今日がどんな日だったか何十年分見てみるのだ
三十年前にふぐを食べてあたったことや
五年前に散歩して骨折したのも同じ日だったことなどを思い出し
「今日はついてない日だ!」
と言いながら
ぽっくり
天国に召されるその日まで


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