香水不全 日々の垂れ流し20050905/A道化
ある恋をしているとき、その恋のお相手の彼は無臭、或いは石鹸の匂いくらいしか読み取れなかった。けれど、それは彼にとてもよく似合った。
大好きなある友人と出かけたとき、ふと香水の話になって、つけてんの?と問われたので、つけてるよと答えた。「へえ、気が付かなかったわ」と友人は言った。その人は私にとって「気がついて欲しい」人だった。もう少しつければよかったと思った。
そのとき、ふと思った。もしも、気が付いて欲しい誰かが自分の香りに気が付いてくれなかったとしたら。或いは、香りの届く範囲内に誰も踏み込むことがなかったとしたら。もう少しだろうか、香っているだろうか、ああもう少しだろうか
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