喫水線の住人/ソマリ
深海に響くサイレン 旋律のようなうねりはやがて波へと
呼吸ひとつ躊躇うほどの静寂に抱かれて眠る幼い嵐
海水に混ざれぬ雨が沈みゆく マリン・スノーの一粒として
なにもかも蒼い世界でその赤は直視できない眩しさだった
藻屑片ひとひらほどの秘め事が真珠を真似て仄かにひかる
水底で想いを告げる歌ならば波の数だけ知っているのに
溺れるという言葉さえ判らずに無様にもがき剥がれた鱗
ゆっくりと 水没していく熱帯夜 かじかむ心臓、ひとつまたたく
泡は消え 潮の香りが残るだけ あのひとが泣いてくれますように
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