柔らかい月/クリ
 
夜の底で つながる人と
朝の水面(みなも)で すれ違う人と


誰も見上げない空を航(わた)る
柔らかい月の
温度は 少しずつ
上がっていくのでしょう
忘れられないほどに
忘れられるほどに
人肌に


わたしがここに いることを
あなたは知らない
あの時までに言えなかった千の言葉は
まだひとつも文字にならない
こうして繰り言を落とすだけで
夜と朝の間に挟まって でも でも


月の温度は知らないけれど
柔らかさがようやく わかるように
なりました
最後の 千回目のキスのように
月は震えているのです


誰も見ぬ月も ひっそりと
見えない月も こっそりと
いつでもそこに ありました
夜の澱にも 朝の上澄みにも




        Kuri, Kipple : 2005.09.01
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