夜の地下鉄は海の匂いがする/ベンジャミン
ふと遠いところへ行きたくなる
通過電車に手をのばせば届きそうで届かない
本気で身を乗り出すと本当に連れ去られてしまうから
「危険ですから、黄色い線の内側までお下がりください」
というアナウンスに
いったいどっちが内側なんですかと呟いてみる
夜の地下鉄は
海の匂いがする
記憶をたどってゆくと懐かしさは塩辛い味がして
それが鼻の奥をつんと刺激しているのだと
となりで一緒に電車を待っていたおじさんは
もうすでに溺れかけていて
きっと早く楽になることばかり考えているのだろうけど
それは大きなお世話だとわかっている
夜の地下鉄は
海の匂いがする
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