傘と白い手/いとう
 


長雨の続く夕刻の水溜まりに影が映ることは
ない。泥水のように濁るわけでもなく、清水
のように色も無くすべてを透過するわけでも
なく、それは雨水と呼ばれるものと酷似して
いる。事実、それは雨水と呼ばれても遜色が
ないのかもしれないし、誰もがそれを雨水と
呼ぶのだろう。

雨は遥かな高みから傘に激突してくるが、そ
の軽さゆえに重力の力を借りても傘を突き破
ることはない。ただ、音だけを残して雨は傘
に敗れ去っていく。雨の望むと望まざるにか
かわらずそれは決定づけられていて、運命と
呼んでもさしつかえないものだけが残る。

いくつかの水溜まりのひとつには必ず、細く

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