傘と白い手/いとう
白い手が無数に伸びている。アルビノのミミ
ズのようなその白い手は何か、目の代わりの
ような器官を使って周囲を感知しているらし
く、通り過ぎる人々の膝をめがけて突進を繰
り返す。その試みのほとんどは失敗に終わる
が、時折、遠ざかっていく人の速度に合わせ
てするすると伸びていく手も見える。
雨は水溜まりを浸食していく。雨水は雨水と
呼ばれるものと出会い、同化し、水溜まりは
他のいくつかの水溜まりとつながり、境界と
境界はその意味を放棄する。白い手の群れは
密集できる場所を失い拡散していく。飽和こ
そが存在価値であるかのように、その群れは
失われる。
傘はない。
群れのための傘は、どこにもない。
存在しない。
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