低気圧/岡村明子
 
頭がしゅうしゅうする
曇り空に
赤い点
落下傘が流されていく
ごまつぶのような黒い人かげ
大きな指が
垂れこめた雲に
文字を描く
地上にひしめいている
誰もが
しゅうしゅうしている今日
パラソルの下で
バッグを落とし
化粧品を散乱させた

蹴飛ばされ
泥にまみれた
口紅の赤をめがけて
ホームレスが
口ずさむ
乾ききった
唇で
九九
いっせいに
パラソルが閉じられ
アスファルトに反射する光の粒が
空中に舞う一瞬
空だけが残り
落下傘の行方に
大きな指がまた何事かを書く
それは
東京の
ありふれた一日


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