夏の扉/まんぼう
 

侵された柔らかな海の洞窟
蒼く反響する水底から
掬い取った石英は
浮き雲が見る夢のかたち

船虫の棲む加賀の潜戸は
時を流刑する賽の河原
打ち棄てられた白磁の人形
反転しない砂時計
繰り返される夢のかたち

深く息をとめて
海の葬列を追えば
煌くものは失はれ
透きとおったものが残される

消えかかる記憶を
木洩れ日に透かせば
昔はダリアの花咲く廃園
コーネルの箱に
閉じ込められた青いオーム
迷宮の時間たち

開け放たれた夏の扉から
葛は長く蔓を伸ばし
行過ぎる雲を
追いかける

8月の石の回廊を
銀色に錆びた
風が吹き
浮き雲は流れ
いつか私も過ぎ去って行く

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