A氏「記憶と記録と」/紫音
 
れて初めて口にした言葉が
親を見て「誰?」
父は泣いたらしい
いないものはしょうがない
いつも知らない人が
起きる前に家を出て
寝付いた後に帰ってくるから
やっぱり知らない人

そんな記憶の次は
蝉が騒音を奏でる坂道を
照り焼きにされながら抱えられて上った坂道

その次は
一番足が遅い集団の中で
ダントツで遅かったかけっこ
これって平等の名を借りた
差別だよね

そんな記憶
数年ごとに一回だけの
しっかりと植えつけられた記録

こんな事で
自分が出来上がっているのかと思うと
少し悲しい

思い出は
そんなものだろうか

甘美な記憶は
脚本の中だけなのかも

書き残すのも
こんなものばかりだから
記憶も記録も
思い出すこともないものばかり

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