交差点の魚達/伊藤洋
 
ゆっくりと走り始めた君は、交差点で急に後ろを振り返り
やっぱり私、生きようと思うの、と
その周りを、背中の汚い魚が眩しそうに君を見ていた

この世界は、君が住むには過酷過ぎた
君の手首から流れた幾筋かの血は、世界を浄化して
海と空が溶けるところで交わった

その夜12時に、君の母親から電話があって
君のなめらかな肌から最後の血が流れ尽きたことを聞いた時
地球は、その重みの半分を、永遠になくしてしまった

僕は今、背中の汚い魚となって、この世界で養殖されている
瞬きもしないで、うつむきかげんに交差点をわたるたび
あの日の君の姿が、僕の同類たちに混じってあらわれて
生きよう、生きよう、と語りかける

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