物質/アンテ
 

拳で壁を叩いてみると
重く鈍い音がした
入念に調べても
どこにも扉はなかった
振り返ると
ずっと遠くに壁が見えた
手を強く握りしめて
小さく息を吐いて
また歩き出した
拳の痛みはゆっくりとやわらいで
気がついた時には
もうなにも感じなかった

何千億の銀河のなかの
何千億の星のひとつの
小さな惑星の
十の二十三乗分の一にも満たない
一人の身体に詰まった
一塊の脳が思い至った
正義だとか
真実だとかなんて
所詮
合計四億トンほどの人間にすら
通用しなかった
すべての人間の
行動だとか言質だとかを
うまく説明できる常識や原理が
見当たらないのは
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