晩夏/大覚アキラ
汗染みだらけの帽子を目深に被って
叩きつけるような陽射しの中
スーツ姿のサラリーマンの流れに逆らうように
足早に歩くあなたを見かけました
頬には汗が幾筋も流れ
まるで涙のように見えました
あなたには
帰る場所もなく
待つ人もいないと
みんなはいうけれど
あなたの
過ぎ去った日々のなかには
帰る家があったのでしょう
愛した人もいたのでしょう
あなたが
どこから来たのかは訊ねません
あなたが
どこへ行くのかも訊ねません
人波の向こうに
呑まれるように消えていく
あなたの後姿を見送りながら
私にできることは
この
夏の終わりにしては強すぎる陽射しを
少しでも和らげてくれるささやかな木陰で
あなたのために
ひとつのベンチが空いているといい
そう願うことだけでした
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