SPRECHCHOR/大覚アキラ
右翼の街宣車が
絶叫しながら走り去っていく
大阪市役所前
午後三時
数十台の絶叫が織り成す
類稀なるドップラー効果の競演
気温は摂氏三十四度
その猛烈な熱を
効率よく吸収する
黒塗りのボディに
日の丸をあしらった
街宣車の開け放った窓から
金髪の少年が不思議そうな表情で
道行く人々を眺めている
まるで
サファリパークのバスの窓から
インパラを眺める子供のように
初めて見たインパラの
その皮膚の下で躍動する
しなやかな筋肉の動きに
心を奪われる子供のように
道行く人々を眺めている
金髪の少年を乗せた街宣車の
向こうに広がる西の空には
遠い惑星の異星人が造った
醜悪なピラミッドのように
薄気味悪いほど巨大な
積乱雲がそびえ立っていて
熱を帯びた空気が
恐ろしいほどの速度で
湿気を孕んでいくのが
汗ばんだ肌に伝わってくる
もうすぐ
雨が降るだろう
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