ノート(それがなにかわかりません)/木立 悟
家のそばに浮かんでいる
家と同じかたちのふちどり
それがなにかわかりません
晴れた日にも曇りの日にも
空に無数にきらめく粒子
それがなにかわかりません
まじわりの途中でも訪れるもの
書きとめるために投げ出されたまじわり
それがなにかわかりません
ひとりでひとりを憎みながら
ひとりでひとりを選んでいる
それがなにかわかりません
言っても言わなくても伝わらないもの
伝わることなどけしてないもの
それがなにかわかりません
わたしのからだはどこにもなく
わたしに良く似た容れ物がある
それがなにかわかりません
つねにつねに外からだけ来て
ぽつんと内にたたずんでいる
それがなにかわかりません
いつも感じるわけではなく
いつもがいつもを流れてゆく
それがなにかわかりません
たいせつなものもひともなく
変わりつづける迷い火を追う
それがなにかわかりません
誰もいない容れ物を
遠い音が歩いてゆく
それがなにかわかりません
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