聖夜のためのディミニッシュ・コード、失敗作ヴァリアント/佐々宝砂
 
不協和音ではないのだと学んだ。
あれはいくつのときだったろうか?
確かに冬のことだった、
安アパートの小さなオルガンは、
不安げな和音を奏でてきしんだ。

夜。親密な顔した夢が僕の床に降りてくる。
鈍色の天使が石の翼を波打たせる。
僕はこの廃園を知っている。
この廃園に緑あふれ、泉が湧き、
女たちの嬌声が響いていた時を知っている。

僕の薄っぺらな毛布の奥にまで、
冬は確実に浸透している。
この部屋のどこにも緑はない、
泉もない、女たちの嬌声もない、
だが僕の耳について離れない声。

技巧的な装飾音をちりばめて、
繊細に神経質に歌い
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