そいつの街/チャオ
街には、真夏と人ごみがあった。
真夏と人ごみは、高架橋のしたの、タバコの吸殻を知りはしなかった。
ただそいつは、そのことを知っていた。
タバコの吸殻には、銘柄が刷り込まれていた。
銘柄は、赤い文字で書かれた外国語が記されていた。
ただそいつはその文字を読めやしなかった。
外国語が好きな、女の子が
外国語を話す外国人と、手をつないでいた。
ただそいつは誰とも手をつなぎたくはなかった。
外国人は空き缶を手放す。
手放された空き缶は、道の片隅に転がる。
ただそいつは、知らないふりをしていればよかった。
道の片隅の影響が、街に浮浪するネズミ達を追い出し始めた。
側溝の、昨日の雨水が一匹のネズミを溺れさした。
ただそいつはネズミを見ていた。
雨水が海につく頃。
海の水は砂浜へやってくる。
ただそいつは高架橋の上の空を見ているに過ぎなかった。
街には、真夏と人ごみがあるばかりだった。
真夏は水を蒸発させる。人ごみは始まりと終わりを作る。
ただそいつは循環する、高架橋を見つめていた。
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