思い出未満/銀猫
仕事帰りの溜息と
一緒に開ける玄関に
がさりと音立てるチラシ広告に隠れて
茶封筒がひとつ
独りよがりな祈りを
天使は聞き届けてくれたらしく
それは
ご褒美のように
届いておりました
あなたが時間を切り取って
大切に作ってくれた音がします
それは
すきなうたを共有する
ただそれだけのことなのですが
実は愛より鮮明で
抱き合うより確かに
記憶に降り積む音
見知らぬ他人ではなく
かといって
手に触れることもない
そんな距離には丁度似合いの
いいえ
とっておきの時間の始まりです
一曲目が流れ出しました
添え文の一行目を読み始めます
繰り返し繰り返し聴くお気に入りのうた
幾度もなぞる筆跡と
重なって
重なって
思い出未満の時間は降り積みます
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