プール跡/フユナ
お盆までの、北の短い夏が終るとサトウくんは次の夏まで出てこない。一晩でふっと消えてしまう。一年中いればいいのに、と言うとサトウくんは笑う、でもサトウくんはずっと私たちに言わなかった。今年ももう少しでサトウくんは消える。明日は、水泳大会があるから。そう言って消える。消えるときも、サトウくんは背中を見せない。テーブルの上の夏野菜のサラダ、風化。サトウくんは言わなかった。サトウくんの事は昔から知っていた。夏には必ず聞いたもの。
この北の町の最初で最後の火の夜
(お母さんこんなに血が出たら
僕はもう駄目です)
もう泳げる気がしない
14日、深夜未明、15日、終戦。
広島だけでも長崎
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