声をかける/岡部淳太郎
 
少しずつ
深くなる季節に声をかける
前髪の長さが視界をさえぎる頃
君は青のように濡れるだろう
それは特に悪いことではないのだが
誰もが出立している そのさなか
僕は君に声をかける

少しずつ
狭くなる道に声をかける
汚れた爪の先がさらに汚れを増す頃
君は青とともに濡れるだろう
それは特に不幸なことではないのだが
誰もが何かを決め始めている そのさなか
僕は君に声をかける

少しずつ
世界は少しずつ回り
生も死も
少しずつ進行してゆく
急激にではないのだ 君よ
焚火の薪は少しずつ煙になり
地下の芽は少しずつ成長する
歌が少しずつ降ってくるのと同じように
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