侵攻する夏 (2005.8.3)/和泉 輪
 
私はやはり、と
言わざるを得ない
やはりあの畦道(あぜみち)を
脇目も振らず
私は歩いていたのだと


炎天、真昼、陽炎
夏が侵攻していた
それはいつも匂いから始まる
濃厚な匂いと共にいつの間にか
昆虫の死骸が目立つようになる
嗚呼 蝉が狂ったように啼いている
少年らが白球を追いかけている
それを見た大人は童心にかえり
その隙に少女は女になる
いま誰かの血が蒸発する


喪失の別名・・・・は・・・・
だが高く遠い青空から
帰ってくるものがある
見る影もなく陽に焼けた
あの日の私よ 私の今を
親しい名前で呼んでくれ

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