蝉の声を聴いている/コトリ
窓の外側に
内側から腕をさしだす
こうも空気に差がないと
飛び落ちても気付かないかもしれない
ぼんやりにゆっくりと浸食されて
ぼくは
蝉の声を、聴いている
ほんとうに
ミーン、に濁点をつけて鳴く
こども時代にみた 夏休みの映画のようだ
怪談話も ちょっと背伸びのラブストーリーも
いつもいつも
じれったい横長カメラパン
目のいたくなる、白飛びの日差し
ミーン、に濁点
すべてほんとうの夏だった
北の果て
故郷の弟は
おそらく知らずに死ぬだろう
すべてほんとうの夏だった
ぼくらの スクリーン越しの夏休みは
羨ましいなどと言ったら
罰があたるだろうか
ここでは ぼくだけ世間知らずで
空は
オレンジから白
白から薄藍
蝉の声を聴いているのは ぼくひとりだ
なまあたたかな空気に手を伸ばすのは ぼくひとりだ
ミーン、に濁点が なんて
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