トリコロールのシャツ/チャオ
 
階段を下りる。
アスファルトに足がつく。硬い振動が頭の先まで震える。
暑すぎる夜の熱は、ビルの内側から吐き出されたため息に違いない。
スウェードの香がする。
呼吸を繰り返す街。ライトアップされた夜。

また違う階段の片隅。
酔いつぶれた若い男性が夢をみる。
光の届かない、遮断された路地の階段。
夜の月は彼にだけ注ぐ。
トリコロール柄のシャツを、彼の体にかける。
彼は口元を歪ませる。星はみえない。
明るい夜には、月しか見えない。

もっと遠くの階段。
歩きつかれた。夜までの距離は永遠に近い。
この街は白夜だ。はかなく広がる陽の光。
訪れることを知らない夜。去ることを知らない光。
歩道橋ですれ違う人ごみ。
誰かを支え、支えられて向かう場所。
アルコールの瞳が見る一瞬だけの闇。

階段に一枚づつ置いてきたカード。
忘れていく記憶に
順応するために。
これからが世界だ!そして、これからも世界だ
階段に、忘れていくカード。

トリコロールのシャツは風に吹かれる。
誰も目覚めなかった朝に、
トリコロールのシャツは川に流れる。

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